日経B 8/31号を見ていて、記事広告で引っ掛かってしまった。電源開発=J-Powerの広告で、豪州の低品位褐炭を利用して水素を作り出す環境志向のプロジェクトが進んでいるという。J-Powerが目指すのは、@高効率石炭火力と、A水素供給で、環境に貢献することだという。豪州ではAに参加する。二酸化炭素の排出量が大きい石炭火力発電が百基も稼働している日本が、世界で非難されている中で、なぜ@なのか? また褐炭がなぜ水素になるのか? 記事広告の中では読み取れなかったので調べてみた。
石炭は炭素だ。石油や天然ガスは炭素と水素の化合物だから、燃やして同じ熱量を取り出すのに、石炭の方が排出する二酸化炭素=炭酸ガスが多くなるのは当たり前で、だから非難されている。電力会社としては、原子力も駄目、石炭も駄目では、電力は料金を倍にして日光と風のまにまに供給するしかないと開き直りたいはずだ。
消費エネルギー(燃料)に対する出力エネルギー(電力)の割合をエネルギー効率という。石炭火力発電では新型で40-43%、ガスタービンを回した排気で蒸気タービンを回すCombined Cycle発電で 50-60%、全世界の発電効率(どうやって調べたのかな)で 33%という数値がWikiにある。
水蒸気を含む空気(空気吹き)または酸素(酸素吹き)を石炭の微粉に加えると、石炭は部分燃焼して発熱し、C + H2O --> CO + H2 という反応が起こり、一酸化炭素と水素を主成分とする石炭ガスが発生する。このガスは燃えて、二酸化炭素と水蒸気になる。都市ガスも天然ガス化される前までは石炭ガスだった。当然発電にも使える。
石炭ガス化複合発電=Integrated Coal Gasification Combined Cycle=IGCC は、酸素吹きまたは空気吹きの石炭ガスを燃料とするCombined Cycle発電である。最先端のものはエネルギー効率48-50%が実現でき、石炭が少なくて済むから、通常の石油火力と同等の二酸化炭素の排出量で済むという。経産省とNEDOの主導で、1986年から電力9社・電源開発・三菱重工などで共同開発を進めて来た。共同体 Clean Coal Power研究所が、実証実験に成功し、それを合併した常磐共同火力勿来発電所10号機25万kwの空気吹き商用運転が2013年に開始された。空気吹きでの実用化は日本の快挙だという。2017年には、大崎CoolGen鰍ェ広島県の大崎発電所で酸素吹き実証機16.6万kwの運転を開始した。また福島復興を掲げた勿来の空気吹き実証機54kwは2020年度運転開始予定で、エネルギー効率48%を目指す。同じく福島復興実証機が2021年度予定で広野で進んでいる。
空気吹きでは不要な酸素製造工程が酸素吹きでは必要になる。酸素を作るための電力がエネルギー効率を下げる。しかし液化天然ガス=LNGを使うプラントが近くにある場合には、LNGが気化する際の冷熱で酸素生成に必要なエネルギーが節約でき、または電気分解で水素を生成するプラントがあれば、酸素はそこから供給される。また酸素吹きの石炭ガスは窒素が少ないので、発電しない場合には化学プラントの化学原料に使える。
J-Powerの広告は、複数企業が共同で進める「日豪水素サプライチェーン構築実証事業=HESC=Hydrogen Energy Supply Chain」でのJ-Powerの活躍を謳う。使い道が限られる豪州の低品位石炭である褐炭で石炭ガスを生成して水素を取り出し、一酸化炭素は酸化して二酸化炭素として処理するという。水素は2020年内に製造開始し、液化して船で日本に輸送する。この水素生成の要をJ-Powerが担っているという。1990年代から上記のIGCCの開発研究で石炭ガスを扱って来た実績が評価されたという。
J-Powerはまた、二酸化炭素を放出しないで水素を提供することを目標としているそうだ。水素は、発電や自動車に、また再生エネの増減のバッファーに、またアンモニア生成など化学材料に使う。二酸化炭素は地中や海中深く沈める貯留処理や、還元して炭素として原材料に使うことを研究しているという。上記大崎CoolGen鰍ノ参画し、@IGCC発電、A二酸化炭素の分離回収、B水素を燃料電池に活用、などを開発しているという。
J-Powerの広告はイメージ高揚になりそうだが、IGCCの二酸化炭素排出量や、二酸化炭素の貯留方法など、課題は多いように見える。 以上